2006年 02月 27日
虫のスライド話をしてきた。松本むしの会で知り合ったナスノさんが主催している三郷昆虫クラブという子どもたちが相手だ。昆虫クラブというくらいだから、集まるのは多かれ少なかれ虫に興味ひかれる昆虫少年少女たち。
教員をしていたころの感触では、昆虫少年という存在は絶滅危惧種に近い存在になっていると思っていた。ざっと1000人あたり数人いるかどうかといった印象だっただろうか。だから、ナスノさんにこのクラブの話を聞いたときは驚いた。旧三郷村の小中学生は900〜1000人くらいだが、毎年このクラブには20〜30人ほどが集まって来るのだという。ひょっとすると日本一昆虫少年生息密度の高いエリアかもしれぬ。そして現代の虫こどもとはどんな感じなのか。そんな興味もあっていそいそと出かけていった。 内容は、以前地元の小学校でやらせてもらった授業を骨に、最近興味をひかれている虫たちのスライドショーをあわせたもので、題して「ご近所昆虫探検隊」。 親子あわせて30人ほどの参加者を前にして、イントロは「好きな虫、きらいな虫」をあげてもらう。はじめは緊張気味だったが、ほどなく声があがるようになる。好きな方にクワガタ、カブトが入ってくるのは予想通りだったが、モルフォチョウやらボクサーカマキリやら何とかノコギリクワガタといった外国産の虫が入ってくるのはやはりムシキングの影響大なんだろうか。きらいな方には、カメムシ、ハエ、ハチ、ゴキブリが順当に登場。ゴキきらいな理由聞いてみると、「気持ち悪い、黒い、足が速い」とこのあたりはまだ僕の知る子どもたちとまあ同様。 つづいてゴキ話。家にゴキブリいる人?で1/3くらいしか手が上がらぬところが、やはり長野県だろうか。が、見たことあるという人はけっこう多い。そこで写真を見て「家にいる、もしくは出会ったことのあるゴキはどれ?」と識別してもらう。選択肢は、ワモン、クロ、ヤマト、チャバネ。お、さすがに昆虫クラブ、と思い始めたのはこのあたりからで、クロやヤマトなどこのあたりの家屋にいるだろう種類を見分けている人が多いし、中には名前と姿の一致しにくいだろうチャバネの名をちゃんと挙げる子なんかまでいる。 ここで真打ちオオゴキブリ登場。先日シカタさんに案内してもらって見つけておいた野ゴキの代表だ。ここでもさすがにオオゴキは人気者で、ゴキきらいにあげていた子も含めて「あ、固い!」などと触りまくり、さらに大人たちも「ほお、これは大きいねえ」とちゃんと興味を持ってくださる。こういう環境なら虫きらいにはならんだろうなあと思う。 つづいてチョウとガを見分ける問題だが、ここであらためて昆虫クラブの実力発揮で、ほとんどが正解。唯一、イカリモンガに迷う子が数人いるくらい。チャバネセセリにもキオビエダシャクにも引っかからない。後で聞いた話だが、泊まりがけの合宿で夜を徹して灯火採集までしているというから、頭じゃなく、たくさんの虫を経験的に知っているということがこの識別眼をつくっているのだろう。 そして今回初めて入れてみた「人が食べる虫」。信州といえば昆虫食だけれど、実際のところどうなのか聞いてみたい、と思って入れてみた。食べた経験のある人の割合では、イナゴで半分くらい、ハチノコで1/3、ザザムシ(ヒゲナガカワトビケラ幼虫)だと1/4、カミキリムシ幼虫はゼロ。予想よりもすこし少な目だろうか。が、他の地方と比べればそれでもやはり多いかもしれない。持ってきたザザムシの試食になると、「わー、ボクいらない、いらない」という子どももいて、子ども世代ではやはり虫食経験は下がる。 この後は、ハサミムシ、ミノムシ、ヒゲナガガ、アリジゴク、オトシブミ、モズのはやにえ……と、ご近所のちょっと変テコな虫話を少しずつスライドで紹介していく。事前にナスノさんが「虫が話題であるかぎり話は聞きます」と言っていたとおり、子どもたちの集中力はとぎれることなく、こんなマイナー虫たちにも目と耳を傾けつづける。冬虫夏草を紹介したあたりで1時間半がすでにタイムアップ。もう少し前半のように中テーマくらいのくくりで中身を絞った方がよかったかもしれない。 最後の質問コーナーも、「コブハサミムシのオスには、どうして二つのタイプがある(アルマン型とルイス型のこと)のですか?」とか、「どうして虫にはたくさんの種類があるの?」とか、まあもうタジタジ。終了後も子どもたちは集まってきて、再度オオゴキ触り大会。 終わったあとスタッフの方たちと雑談。話を聞いていると、スタッフや親など大人たちが、自分たちが楽しもう、楽しみたい、という雰囲気に満ちていることがわかってきて、ああ、これが16年もつづけてこられた源なのだな、と理解できた。子どもたちの中には、自分のこづかいを貯めて蛾類大図鑑を買いそれを枕にして寝ているとか、きわめてきっちり細密画を描く子がいたりするという。このクラブの卒業生もすでに多く、大人子ども含めて、虫を中心に自然を楽しむ人たちのネットワークになっていたり、何よりいろんな関わり方楽しみ方をしようというゆるやかさがいい。 中心メンバーであるナスノさんに、虫の世界に入ったキッカケについてうかがった。 「もともと虫には興味があったんですけど、田淵行雄さんを訪ねたことがあるんです。その出会いが強烈だった。たとえば、 『四つ葉のクローバーはよくあるけれど、僕は一つ葉から10何葉まで集めている。君は七つ葉と八つ葉を見たことないか?そこがまだ欠けているんだ』 なんていうんです。そういうことを面白がれるのは、すごいって思いました。田淵さんは高山蝶の研究とか写真で有名な方で、それから虫にはまっていきました……」 その田淵さんの面白さをおもしろいと思ったナスノさん。そのナスノさんとネットワークをつくっているおもしろそうな人たち。その中には、動物の死体を集めては骨とりしている人がいたり、以前僕が京都精華大で講演したことのあることを知っている人がいたり、そういえばイッカクの牙を持ってる人がいたよ、などと、妙なところであらたなつながりが見つかったりして、そんな人のつながりがあらたに広がったということが、僕にとって今回の出前の大きな収穫だった。 *ナスノさんのページは芋虫たちのつぶやき *今日の画像は、今回もスターだったオオゴキ背中……
by narwhal2
| 2006-02-27 11:22
| その他の虫
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