2006年 06月 20日
梁川での二日目。昨日ですでに一仕事した気になっていたが、この日が本番の授業。カイツさんに送ってもらってまずは梁川小の体育館へ。だだっ広く何だか授業のイメージがつきにくい空間.それでもオールマイティ学芸員ヨシノさんが今回アシスタントしてくれることになったので心強い。
今回用意したネタはすべて虫クイズ形式.手続きはわかりやすく。基本的に何の虫なのかをあててもらう。出てくる虫はできるだけ全員が知ってそうな種類を中心に。しかし少しはマニアックなのも入れて.一応のテーマは擬態.ハチ擬態のハナアブであそびつつ、生態的に食べられやすい立場にある虫の存在を探るという、以前学校勤めしていたときにあつかっていたのを小学生向きにアレンジし、これらをスライドショーで組んでもってきた。流れとしては、虫の部分クイズからはじまって、虫の蛹・幼虫・卵クイズ、メインのハチとアブの見分けクイズ、最後にいくつかの擬態昆虫の紹介というものだ。 一回目の授業は、うーん、やっぱりちっこいなあ、という一年生から三年生までの300人.少し臆したりなんかしてシーンとすることを僕としては心配していたのだけれど、それはまったくの杞憂であり、むしろストレートでパワフルなエネルギーをぶつけてくる感じの小学校低学年だった。部分クイズのクワガタのアゴだけ見せたときなど、ほぼ全員が「ハイ!ハイ!」と叫びながら手をあげる、といった具合. そうやって順調に虫クイズが進んでいくうちに気がついたこと。一つ、小学生とくに低学年の子供には先入観がないということ。たとえばクワガタのアゴを見せられたあとにハサミムシのハサミを見ると、けっこう多くの人がクワガタのアゴ?と勘違いしてくれて楽しめるものなのだけれど、これをスッパリ「ハサミムシ!」と言い当てる子がいたりする。 メインネタのハチ・アブの関係も、ハチに体する先入観が十分にあって、はじめてアブの擬態ぶりがきわだつというもの。ところが小学生にはハチグループの先入観は比較的少ないから、アブも色眼鏡なしでよく観察して、「触角がちがう」「翅の感じが違う」「眼がちがう」「ハチじゃない」とけっこうすんなり見分けてしまうのである. もう一つ、虫キングの世界だけでなく、身近な虫についてもかなり詳しい子がいるということ。たとえば頭部だけを見て、「チョウ」だけでなく「モンシロチョウ」といいあてる。体の緑の黒のシマシマだけを見て、「アゲハ」でなく「キアゲハの幼虫」といいあてる、という具合だ。 アゲハで思い出したのだけれど、夜の飲み会で話していたPTAの方の話。「昔は田んぼのセリにアゲハチョウ卵産んでたけど、最近は庭のサンショに卵産んでるのね」と、これはこれで観察眼のある方なのだけれど、キアゲハとアゲハがだぶっている。が、前述の小学生はこの点を幼虫でちゃんと見分けているわけなのだ。もしかすると、あとで紹介するように、ここの小学生たちが自然関係に眼を向ける機会が多いということによるのかもしれないのだけれど、まあ300人もいると、そうやってズバリ知っている子がいるわけで、虫クイズもどんどん進んでいくのであった. これは僕にとってやや誤算でもあって、メインのハチアブ見分けクイズのチャンピオンには、伊那谷特産の食虫4点セット(イナゴ、ハチノコ、サナギ、ザザムシ)を試食してもらおうと用意していたのだけれど、全問正解者がなんと10数人も出るしまつ。おまけに少しはいやがる子もいるんじゃないかと予想していたので、「食べてみたい人はちょっとおいで」と声をかけたのが不用意で、あっというまにみな立ち上がり、僕とヨシノさんはザザムシつまんだ箸を手にしつつ、100人くらいの子供の波に溺れるというパニックに陥った.いまどきの小学生をナメちゃいかんぜよ……. そんなハプニングありつつも基本的にはこっちも楽しみつつ、低学年バージョンを終える。ひきつづきの高学年バージョンは、実に落ち着いた感じで授業って感じになった。小学生って幅ありすぎなのね……. 午後からは、となりの粟野小へ。こちらは全校あわせて120人という人数なので、一回でまとめて大きめの教室で授業.一年生から六年生までいっしょだから、反応の違いもあってなかなかおもしろい。こちらの小学生も元気よく、ストレート。しかも手を挙げつつ「ハイ!自信アリ!自信アリ!」と指してもらうためにアピールするのが流行っているらしく、こっちが圧倒されるくらい。虫のことをジックリよく見て、なかによく知っている子がいて引っ張るという点はこちらも同じ.もっとマニアックな内容を盛り込んでも……と思ってしまった。 さて、この日の僕にとって大きな収穫の一つは、この小学校のサイトウ校長センセイであった。サイトウさんは見た目にはおだやかで優しい感じの校長先生だなあという印象なのだけれど、話を聞いていくとこれがもう実にユニークでステキな校長なのだ。 サイトウ先生は昇降口に自分のコーナーをつくっている。題して「これなあに」コーナー。生徒が持ち込むさまざまな生き物をつぎつぎに展示していくというものだが、その見せ方もいろいろ工夫してあるところが楽しい.たとえば「これなあに サクラの木から○○○のたまごを見つけたよ □年□くん」とそのブツが貼付けてあるのだけれど、翌週には○の一文字目、次の週には二文字目が埋まっていくという具合。コガタスズメバチの巣を採集すれば、その数を丹念にかぞえ「100匹」と題して並べて展示する.植物は置くだけでは見てくれないと、「○○○○ 全体ににおいがします はなを近づけてごらん」。傑作はアゲハの幼虫で、展示をつづけていたらいつの間にか脱走しまい、しばらくのち近くの廊下壁で蛹化しているのを子供が見つけ、結局そのまま展示しつづてけているというもの。廊下の壁にアゲハの蛹がくっついたのをみんなで見守っている学校なんてそうないだろうなと思う.こんな風に設備もお金もかけるわけでなく、手作りでアナログな楽しさにあふれたコーナーなのだ。 学芸員であるヨシノさんは「うん、これうちでマネさしてもらおう」と喜んでいるし、裏磐梯からかけつけてきたネイチャーガイドのマキさんも「おもしろーい!」と携帯でこのコーナーを撮影しまくっている。 もともとこのコーナーはお辞めになった教頭先生が始め受け継いだというが、やりはじめると、自分で図鑑を調べ、どうやったら子供が見てくれるかを工夫していくことにはまっていってるという.校長室の棚にはエビガラスズメやらアゲハの標本が放り込まれていて、もう理科室的.次のエピソードがこの校長室のステキさをもっとも物語っていると思う. 「カマキリの卵を生徒が持ってきたんです.もういくつか来ていたので、一つは机の引き出しに入れときました.そのあと出張があって、数日後に帰ってきて校長室あけたら、中はカマキリの子どもでいっぱいになってました」 サイトウ先生はこれもコーナーのネタにしてしまう。 「お知らせ 校長室で大発生したカマキリの赤ちゃんは、5月29日に一年生の○くんがもってきてくれたカマキリのたまごからでたものでした」 カマキリの幼虫でいっぱいになる校長室、なんて、うん、実にいいなあと思う。 聞けば、もともと理科教師であり、以前ある分校にいたときには、クマの胎児を猟師から手に入れ、それを何とかハクセイにしようと、解説本を手に一人でとりくんでみたことがあるという、何か通づるところのある根っからの生き物屋校長センセイなのだった。 それにしても、梁川というところはなぜだか自然にかかわる面白い人たちの集まってくるスポットのようである。夜の飲み会は両校長先生、PTAの面々プラス、生き物屋たちという構成なのだが、話題はほとんど生き物系。 ミタムラさんが「今のカイコはみんなF1です。中国産のカイコのマユっていうのはまん丸で、日本産のカイコはひょうたん型してます。それをかけあわせたのがF1です。他に欧州産の細長タイプ、熱帯産というのもあります。でも、同じ梁川産のカイコといっても、実は飼育する人によって伝わっていく形質には差が出てきてしまうんです。F1の次がF2、F3です……」などと専門分野のレクチャーすれば(これが実におもしろくて勉強になった)、「レースのF1と同じかあ」などと茶々を入れつつも、「それで昔の絵ではマユがひょうたんの形なのかあ……」とカイコやクワの生き物的側面で面白がることができてしまう人たちなのである。ちなみにミタムラさんは養蚕が仕事上の専門分野なので、夕方少しフィールド歩きしたときも、クワの木を見上げつつ「これはイチノセかな、いやカイリョウネズミガエシかな」などと品種までいいあてるという必殺技で、僕やヨシノさんやマキさんをビックリさせていたのだ。自分で手がけたというイタチの生乾きの毛皮とイノシシ子供の頭骨を手にかけつけたタカハラさんもここに合流し、楽しい情報交換はなおも続くのであった. ふりかえってみると、こうして様々なおもしろい生き物屋がこの梁川でつながっており、僕が授業をした学校にも、ミタムラさんをはじめとして講師でかかわっていたり観察会をやったり、3回つづけて盛口氏が授業をやっているわけであり、だからこそ虫の授業で盛り上がれる子供達につながっているのかもしれないなと思う.まあどのくらい子供達に影響しているのかわからないが、大人たちがとにかく楽しんでいる、ということだけはたしかだ。おもしろい人同士がつながることによってさらにおもしろがる、ということのパワーを見たような気がするし、ここの場合、仕掛人カイツさんの力がやはり大きいのだろうなあ、とあらためて思う福島行きであった.
by narwhal2
| 2006-06-20 11:06
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