2006年 07月 17日
昨日まで関東方面へ遠征していたのは、ひとつには東京で人と会って打ち合わせをする用事があったことと、フィールド的には冬虫夏草がメインであった。現在の伊那谷のフィールドでもいくつかの冬虫夏草が見つかるようになってきているのだけれど、なかなか見つからない種類もある。その中にはかつて埼玉のフィールドでごく普通に見つけていた種類もある。おりしも季節はほとんどの冬虫夏草にとっての旬である夏場を迎えようというとき。それならこの際いくつか心当たりを回ってみようと考えたのだった。虫草詣での旅というわけだ。 一日目はかつてのフィールドで虫草探し。よく通った下畑の谷がメイン。車を降りて歩き出し、その暑さと湿気がグッとこたえる。この日東京で35度とかいう猛暑の日となったということもあったのだろうが、何年も暮らして来た信州向きの、おまけにここ4年も夏には北極圏で過ごす、そういう体になってきているのかもしれない。谷沿いを歩くだけで、眼鏡が全面雲って探索しにくいことこの上ないが、湿気十分なのは虫草にとってはいい条件と考えつつ探し始める。 最初に見つけたのは林道脇の土斜面でウスキサナギタケらしき姿。ところが根元を掘ってみると虫体確認できず。子実体のブツブツはまちがいなく虫草なのだけれど、ちょっとがっかり。沢沿いではクモにつくギベルラタケがいくつも目についた。いつもは小さなものばかりだけれど、数センチサイズの大型クモに発生したものもあって、なかなかいい感じだった。ここではガヤドリタケ、運が良ければヤンマタケと期待していたのだけれど、目論見ははずれ、その後はハナサナギタケを二本見るのみ。 条件はよさそうなのになあとあきらめきれずにつづけていると、沢沿いの斜面と林道脇からオサムシタケ。見つけた三本のうち、一つはエサキオサムシから、もう一つは幼虫から、最後の一つはアオオサムシからでるもの(それぞれ今日の画像の左、中、右)だった。アオオサからのものは、今まで見たどのオサムシタケよりも立派で、子実体が15本も伸びる迫力ある代物であった。 その後、かつてセミタケを見つけたことのある狭山丘陵のとある神社まで足を伸ばしたのだが、いまひとつ。オサムシタケを何本かと、ニホンミツバチの自然巣を見たくらいに終わる。さらにオサムシタケの大量発生を見たことのある三ヶ島の谷も回ってみたのだが、こちらはさっぱり空振り。ちなみにこの湿地では某W大が校舎建築の大規模工事を始めており、さらにガックリ。やっぱり通わないうちにいろいろ変わって来るねえ、と思う。 夜は友人たちと飲みながらあれこれ話。この日僕が採集してきた冬虫夏草たちも話のタネになる。見てくれのではアオオサムシ生のオサムシタケが一番人気。冬虫夏草が虫をどうやって殺すのかというあたりも議論になったりする。 この日はいくつかの出会いがあった。 自森卒業生でカメラマンのクミチョウことタケウチくん。彼が出版した、アフリカのアンゴラの子どもたちの姿を写真とインタビューでていねいに誠実にとらえた「このほしのまん中で」(自費出版)という写真集にしばし見入る。 「知人がアンゴラに学校をつくる活動をしてたんです。あるとき子供たち何十人とゲリラに連れ去られるという事件がありました。いくつかアフリカの事情について知っていた僕の頭にそのとき浮かんだのは『もうダメかもしれないな』ということでした。しかし知人たちの努力のかいあって、その後子どもたちは開放されたんです。僕がもっていたのは冷たい知識だったんだって思いました。それからアンゴラにいきました……」 冷たい知識、その言葉にドキリとさせられる。あとでみたら、クミチョウは本のまえがきにこんなことも書いていた。 「人は、他者を一個人として認識できない限りは、その他者に対して想像力を働かせらられないのです」 僕もイヌイットの家にここ数年通うようになって思っていたことだった。通うたびに、先住民とかイヌイットとかいう括り(もちろん背景はそうなのだけれど)が薄れて、お父さんのチャーリーだったり、お母さんのエリサピーだったりとの一人ずつとのつきあいになってきている。 「地球温暖化によって北極の氷が融け、イヌイットたちの漁に影響が出てきている」 という新聞のニュースももちろん気になるが、実のところそれよりも、たとえば、先日息子の一人ネイムンからもらった 「昨日お父さんが今年初めてのイッカクを仕留めてきたよ。ところで日本からハンティングに来たいっていう客を紹介してくれないか?」 なんていうメールの方がうれしかったり心配になったりするニュースだったりする。 ミュージシャンやってるNにもひさびさに再会。それほど音楽方面にアンテナを張ってない僕がいろんなところで彼の音楽を耳にするようになってきていたからさぞ忙しいのだろうなと思っていたのだが、本人は「そんなことないよー」といつもの調子。 「この後どうしようかってアイディアを考えてるところ。なぜか沖縄ばっかり行ってる。アフリカにも興味あるし……」 音楽マーケットの中にいるだろう彼だが、自分の感覚を大切にして進んでいることも、そのペースをまわりが認めてくれるような環境をつくってきていることも、いいなあと思う。 いっしょに来てくれていた同じくミュージシャンのHさんは、今回の僕の収穫であるオサムシタケがえらく気に入った様子で、「もう一回見せてもらっていいですか」と何度かジックリながめ、さらにNに「今度のジャケットにしなよ」なんていっている。こちらも軽やかでマイペースな感じ。 クミチョウにせよ、NやHさんにせよ、どんな環境にいようとも、何をするにしても、自分の感覚にていねいに耳をすませるということなんだよなあ、とあらためて考えさせられるのだった。
by narwhal2
| 2006-07-17 15:39
| 菌類
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