2006年 09月 17日
スガレ追いの方法はそれほど複雑なものではない。エサをかけ、ハチが来るのを待つ。来たハチに見やすい目印のついたエサをもたせる。それを追いかけていき巣を発見する。思いっきり単純に書けば、たったこれだけのことだ。が、書くのと実際にやるのとでは相当なギャップがあるわけなのだが。 たとえばどこにエサをかけるかという選択がある。林の中か、林道のわきか、草地か、尾根筋か、谷筋か……。5メートル違うだけで来たり来なかったりがかわるというからかなり微妙だ。巣の近くならたくさん来るかといえばそうでもない。高く飛び出していれば素通りしてしまうことだってある。「まあ、カンだなあ」とKさんはいう。エサをどのくらいの高さにかけるかということまでが関係してくる。目の高さの枝にかけるか、ヒザくらいの高さにかけるか。「ピンコロは比較的低いところにくるから低めにかける」といった具合だ。 エサをかけて一時間くらいはおいておき、それから来ているかどうかを見回わる。来るのはもちろんスガレだけではない。キンバエなどのハエの仲間はすぐにたくさん集まってくるし、スズメバチの仲間も来る。スガレがなかなか近づいてくれないので、キイロスズメバチなどは来るたびにベルトにさしてあるハエたたきで追い払う。ちなみにKさんの体周りにはいくつも道具が入ってあるいはぶら下がっている。ハエたたき、釣り竿(マクるときにひっかかった糸をあやつる)、よく切れるハサミ、しかけの入ったビニール袋やチョークの粉の入ったビニール袋などはシャツの胸ポケット、ウェストポーチにもいろんな細々した道具が入っている様子。 さて、エサに何匹かのハチが来るようになると、どのハチを追うかということが今度は問題になってくる。同じ種類のハチだからといってみな同じ巣のハチとはかぎらない。この日エサとしてかけてあったウグイには、さっそくキイロ(キオビクロスズメバチ)、グン(シダクロスズメバチ)、しばらくするとピンコロ(クロスズメバチ)がそれぞれやってくるようになった。Kさん、ポケットからビニール袋とストローを取りだす。 「ハチに目印をつけたいとみんな考える。いろんな方法あるけれど、オレはこれ」 ビニール袋には色チョークの粉が入っていて、それをストローの先にチョコンとつけ、エサにとりついているハチに向かいフッと吹きかける。ハチの体には毛がたくさん生えており、背中中心ににその粉ががつく。色をいくつか用意しておき、個体識別するわけだ。これはもう行動生態調査そのものであって何か他の虫の観察にも応用できそう。 マーキングしたハチが何度かエサとりにくるようになると、その間隔で巣の方向と距離を推し量る。3分以内なら50メートル以内というのが一つの目安だそうだが、「3分より長いからといって遠いとはかぎらない。回り道してくるかもしれないし、どこかで止まっていたのかもしれない」。 ここでエサ場に来たスガレはピンコロ、グン、キイロの3種。キイロはわかりやすいが、ピンコロとグンは見分けにくい。一般的にはピンコロよりグンの方が大きめの体つきをしているが、これも栄養状態でかなり開きがあるので、ちゃんと識別するには頭部の紋様を見る必要がある(このあたり僕はまだあやふやなまま)。逆にハチの姿から巣の状態も推し量ることもできる。働きバチの体つきはその巣の栄養状態を反映するからだ。 そうやって追うべき巣のハチを決めたら、トバす。「トバす(飛ばす?)」とは、目印をつけたエサの小片を持たせて巣に帰らせることだ。 このトバシも簡単そうでいて難しい、という。 「スガレを20年くらい前に知り合いのやってる人について再開したとき、いつもオレはトバしばかりやらされてた。マクるのは別の人がやって巣を獲ってくる。オレはだから最後の巣にたどりつくところがズッとわからなかった。でもおかげでトバしだけはうまくなったよ」 エサはイカなどの肉を小さく切ったもの。エサの大きさはハチの体にあわせて微妙に調節する。目印は昔は真綿を使っていたそうだが、Kさんはスーパーのレジ袋を使う。レジ袋は加工してあるのだが、どんな加工かは「それは秘密だ」。白くて軽い素材ならいいわけで、果物を包むクッション材なんかもいいらしい。その目印を細い糸でエサに十字に結びつける。エサ片はせいぜい5ミリ大なので細かな作業だが、Kさんヒザ上で手際よく容易。目印もハチの大きさにあわせて小さくしたりする。大きすぎると飛びにくいし、小さすぎると目立たなくなる。それをエサ場に来たハチの前に差し出す。ハチはその肉片をすぐに抱え、ほどなく飛び立つ。飛び立ったハチはいきなり大空へ舞い上がるというようなことはなく、一度近くの葉や枝にとまる。そして再び飛び始める。ここからがマクり(ハチを追うこと)の始まりとなる。 →スガレをマクる(その1)
by narwhal2
| 2006-09-17 11:44
| ハチ目
|
ファン申請 |
||