2006年 09月 29日
昨日はKさんのスガレ追いにふたたびおじゃまさせていただいた。前回同行させていただいた際に得られなかったカットを撮りたいということがあったのだけれど、またスガレをマクりたいという気持ちがつづいていたということもあった。
Kさんの車に乗り、今回はまた違う山へと向かう。 ハイライトは現場に着く前にやってきた。そのときはちょうど車中でKさんからスカシについて教えてもらっていた。 スカシとは「透かす」であり、スガレの巣を見つける方法の一つのことで、空中を飛んでいるスガレをそのまま見つけだしたどっていく、というもの。かつて農家の方たちが農作業の合間にやったように、田んぼや畑という開けた環境にクロスズメバチがいる場合にはこの方法でけっこう見つかるのだというが、これまた言うは易し。考えてもみてほしい。クロスズメバチやシダクロスズメバチは、スズメバチという名がついているとはいえ、働きバチのサイズは2センチもない。それが高速で飛びすぎていくのを広大で複雑な空間から眼で拾わなければならないのだ。 「たとえばこういうところで見てると飛ぶのがよく見える」 Kさんがそういったのは、谷をはさんだ斜面の向こうから日が射している逆光状態になった場所。たしかに背景の斜面は暗く落ち込んでいて、こういうところを飛ぶものがあれば浮き立って見えるかもなあと思う。が、 「飛び方見てると、巣から出ていくのか、巣に帰っていくのかもわかる」 には、そこまで読めてしまうものなの?であり、 「100m先のスガレが見えることもある。スガレ屋の中には、高圧鉄塔のさらに上を飛ぶスガレを見つけるヤツもいる」 に至っては、ついホンマかいな?とまで思ってしまう。ところがスガレ屋の眼のよさをこの後すぐに知ることになる。 「今、上がっていかなかったか?」 普通の道路わき、小さな沢を渡る橋の手前。車のスピードを落としつつKさんがそうつぶやく。今そこでハチが飛び上がっていったのが見えたというのだ。エッ?もちろん僕は気がつかない。 車をとめて橋から沢の上の空間をながめる。と、たしかに何かハチっぽいのがそこから上がっていく。しばらく見ているとそういうハチがポツポツ通りすぎ、逆に沢のあたりに向かって降りてくるものも見えてくる。いわれれば見えるもんだなあと感心。 ミツバチかもしれんとKさんいうが、周辺にミツバチが巣を構えそうな木など何もなし。沢近くに降りていたKさんが両手で頭の上に丸マークをつくるのが見えた。スガレの巣があったという。ハァ、これがスカシってやつなのかぁ、とその発見能力にビックリ。おそらく単純に視力の問題というよりも、さんざんスガレが飛ぶ姿を見てきての蓄積があるからこそ眼に飛び込んでくるのだろうなあとは思うのだが、いやはやスゴイ。沢沿いのレキ混じりの土中から苦労しつつ掘り出されたのは、Kさんいわく女王の巣盤にも幼虫がつまりはじめた1キロ少しというなかなか立派なシダクロスズメバチの巣であった。 掘り出した巣盤は、ビニールシートの上で働きバチを落とし(新女王用の空の巣盤、女王バチとともに巣のあった場所に戻される)、別ケースに移される。ビニールシート上には巣の細かなカケラや働きバチが残るのだが、Kさん、その中の巣盤から落ちてカケラまみれになった何匹かの幼虫もピンセットでていねいに拾い上げる。 「これ面倒でやらない人もいるけど、スガレ屋のマナーっていうかそういうもんだと思ってる」 さてこうして初っ端から収穫を得たこの日のスガレ追いだが、これからが本番。現場で先に来ていたGさんと合流。Gさんは、 「昔、Gさんと松本の街中でスガレ追いしたことがあった。ありゃおもしろかったぞー」 というKさんの古くからのスガレ友達。 Gさんがかけておいたエサ場(この日のエサはニジマスとウグイ)で、前回同様マーキングし、目印を持たせてトバすが、なかなか巣までたどり着けない。すでに獲れないとわかってる人家につくられた巣のハチだったり、マークした複数の個体がなかなか帰ってこないままで半日が過ぎる。 「ハチが来る前に、人のやる気がなくなっちゃった」 というわけで、午後は先日見つけてあったシダクロの巣をもう一つ掘って(こちらはそれほど大きくないが形はよかった)から早めに引き上げることにする。 帰る前に、行きにKさんがかけたエサを回収しながらチェックする。と、ハチがついている。Kさんが印を持たせてトバす。三人でマクる。別荘の近くで見失う。再び来たスガレに印を持たせてトバす。「目印つけてないから同じハチかどうかわからんけどね」だったが、ハチはちゃんと斜面上に先回りしているGさんの方へと飛んでいく。Kさんと僕が斜面を追いかける。ハチはGさんと僕たちの間の木の高いところにとまっている。と、件のハチは白い目印をたなびかせながら降りてきて、シラカバの根元の穴に吸い込まれた。 「ハイ、現着」 Gさん、Kさん落ち着いてるが、僕は巣に入って行くところを見るのは初めて。だから「アレ?ア、これ巣なの?」という感じだったが、しかし相当気分のいいながめでもある。 「Gさんはあの、巣にスーッと入っていくとこが見たくてスガレやってるんだよ。オレもやっぱり巣を見つけるのが楽しいんだけどね」 苦労してマクったハチがようやく巣に入るところを見届ける。このあたりが、定年退職したくらいの年齢であるKさんやGさんをして連日山に行かせる、スガレ追いの魅力なのだろう。 帰り道、Gさんの自宅に立ち寄り、飼育中のスガレ(画像下)を見せてもらう。Gさん宅は段丘林わきの住宅地にあるが、庭のあちこちにシダクロスズメバチの巣箱が10個も設置されている。巣箱は一般によく置かれている灯籠なんかと同じように妙に庭にとけ込んでいるが、ちがうのはそこからハチが忙しく出入りしていること。巣が最盛期に入りつつあるこの時期、その忙しさはミツバチ的。そこにキイロスズメバチ(「アカバチ」)やオオスズメバチ(「ジャンボ」)もハンティングに来てしまう。それをGさんは毎日見回っては退治する。スガレのため、魚や鶏のササミ・肝、砂糖水など、毎日のエサも欠かせない。かなり大変だと思うのだけれど「これも楽しい」という。「巣を上げるのは10月の終わり頃かなあ、よかったらまたおいで」とGさん。 Kさんからは、最後にこんな話も聞いた。 「今日はおたくの場合、そうはしないけれど、本来、スガレ追いでは、参加したメンバー全員、役割に関係なく獲った巣は山分けと決まってる。風習というかそういうのがあるんだ」 こんな話を聞くにつけ、スガレ追いはやっぱり狩りなのである。 「ハマると大変だから、あんまりやんない方がいいぞ」 ともいわれたが、スガレと人の物語、まだまだたくさんあるんだろうなあ。 →スガレをマクる(その4)
by narwhal2
| 2006-09-29 20:23
| ハチ目
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