2007年 04月 22日
ライトトラップというのをこれまでまともにやったことがなかった。どちらかというと、自分の目と足で探しまわることが好みである。出会った、という感じが欲しいのかもしれない。 でも昨年、森に腐肉を置いたら「こんなにどこにかくれていたの!?」というくらいモンシデムシたちがやってくるのをみて、あ、これも見方の一つかもと気がついたということがあった。ちょっと気にして歩いているくらいではなかなか出会えぬ春のガたちにお目にかかれるのだったらそれもありじゃないと、「ライトトラップやるけど来ませんか?」というシカタ氏からのお誘いにのらせてもらうことにしたのだった。 飯田から車でしばらくいった山中。一般道から少しだけ伸びる林道の突き当たり。対岸の斜面が見晴らせる高台だが、風はそれほど吹きつけないという地点。 「ここはなかなか面白いのが来るんですよ」 話をしながらも、シカタ氏、トラップ機材を素早く、うれしそうに組み立てていく。パイプをジョイントしてレースカーテンを張り、水銀灯、蛍光灯、ブラックライトを発電機につなぐ。それぞれに工夫、改良の跡が見受けられる使い込まれた装置である。 「今日は春のキリガが一通り見られればいいな、と」 点灯からほどなく小さなガが集まり始める。ジョウカイ、アメバチ、ガガンボ、ハエなんかも混じってやってくる。大きめの影、飛来。エゾヨツメ。僕はミーハーライトウォッチャーなので、単純にこういうわかりやすいのがくるとうれしい。小さいのやキリガはいちいちシカタ氏に聞かないと素性もわからずお近づきになれない。ライトに集まってくるガたちを見ていると、やっぱりガは種類多いなあ、と思う。アカバキリガ、スギタニキリガ、ブナキリガ……ほとんどのガの素性を知らない。 「これがスモモキリガ。これはプライヤキリバ。これはただのシャチホコガです」 たまに接点のあるガもやってくる。というよりもシカタ氏に名前を聞いて、ああこいつかと認識するというパターンなのだけれど、そんなときはちょっとうれしい。スモモキリガはそれと思われる卵塊をこの春に見つけていて、プライヤキリバの方は洞窟で越冬しているところだけを見ており、シャチホコガは幼虫だけは特徴的なのでおなじみさん。僕の接し方はちょっと特殊なのかもしれないけれど。 「マルハキバガの仲間は少しとっておこう。あっ、これはナマリキリガ。ちょっと珍品です」 この日は条件悪くないが、出方としてはそれほどすばらしくはなかったようだ。シカタ氏の毒瓶もあまり活躍しない。 存在感があったのはやはりオオシモフリスズメ。いきなりメスが飛来。オスの方は昨年のコンビニ灯火、先日シカタ氏が届けてくれたのですでに対面済みだったが、メスはオスよりも明らかに大きくボリュームがある。さすがに日本最大スズメガである。こんなのが早春に出てくるというのが不思議。オスもつづけて数頭がやってきて、さながらオオシモフリショーとなる。 「食草はサクラとかウメとかバラ科です。西日本にしかいません。飯田のこのあたりまでで上伊那にはいないです。関東にいないのにここにいるから不思議です。食草も特殊なわけじゃないし、単純に気温とかじゃなくて、移動能力とかもあるんでしょう。ときどきこのあたりまでとりにくる人いますよ。この間もガをやってる若い人が聞いてきました」 それにしてもライトトラップって何だか不思議だ。周辺にいる虫があちらからやってきてくれて、この半径数メートルの中を見つめていることで一通り見えてしまうのだから。 「これだけのガをルッキングで見ようと思ったらとんでもなく大変だよね。昼行性だったらまだしも夜行性だしなあ」 「おかしな自然とのつきあい方だとは思いますね。そもそもガ屋って受動的なんですよ。ほら、この間のルリイロスカシクロバみたいな昼行性のマダラガとるのだって、フェロモントラップとか使おうか、とか考える」 自然という広大な相手を見ようとしても、どんな方法をとるにせよ、すべてを見通すことなどできないわけで、ほんのわずかな部分場面しか見ることができない。歩いて探すならば、足と目の届く範囲しか見ることができない。これもある小さな窓から外をながめているのに過ぎない。そう考えると、好みはあるにせよ、灯火トラップというのも自然をのぞく大きな窓の一つなんだな、と今回参加させていただいて思いました、です。 *画像下はオオシモフリスズメ卵(短径2.5mm長径3.5mmと卵もデカい) →お届きモノ
by narwhal2
| 2007-04-22 14:14
| チョウ目
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