2005年 11月 18日
ここのところの流れから、今日もアリの巣探索モードとなっていくつかの林を見て回っていた。そちらの方はさっぱり成果があがらなかったが、かわりに心躍る出会いがあった。
林に横たわる一本のコナラ倒木。まずは倒木下にアリ巣がないかと持ち上げたがさっぱり。すでに冬モードとなった今、いざ探そうとするとアリの巣はなかなか見つからない。そこでついでにという感じではがれかけた樹皮をそっとめくると、楕円形の部屋とその中ですでに越冬するキイロスズメバチがこの倒木から2匹見つかった。 念のため、という感じで向きを変えてお腹をながめてみる。何が「念のため」だったかというと、ちょうど数日前、松浦誠さんの「スズメバチはなぜ刺すか」(北大図書刊行会)を久々に見返していて、ネジレバネについてあらためて知り感心したからだった。 そこにはこのハチに対する寄生者の生活史レビューが書かれていたのだけれど、ネジレバネという昆虫は、越冬のことからしてうなりモノである。 スズメバチというのはみな1年サイクルだ。冬が来ると新女王だけが成虫越冬し、オスバチも働きバチも死んでしまう、そういうしくみになっている。ところが、ネジレバネが寄生した働きバチは不思議なことに冬が来ても死なず、女王のように越冬できるようになってしまう。ネジレバネメス(オスはすでに交尾して死んでしまっている)はそれにとりついた状態で春を迎え、体内にある大量の卵をふ化させ……ということが起きてしまうのだ。つまり働きバチで越冬しているスズメバチはネジレバネに寄生されているということらしい。そして、ネジレバネに寄生されたスズメバチの腹節間には、そのキチン質の頭部が少し突き出ている、ともあった。 そういうわけで、今日見つけたキイロスズメバチは大きさからして新女王らしかったのだけれど、それでもひょっとして腹節の間に何か見えないかとチェックしてみたわけなのだった。と、二匹のうち一匹の腹部に黒いものが見え隠れしたような気がした。僕の眼は最近とみに細かいものにピントが合いにくくなってきており、しかもうかつなことにルーペを忘れてきた。そういうわけでこれまた念のため連れ帰ることにした。 家であらためて見てみると、何重もの念のためが功を奏し、ずばりネジレバネだった。末端に近い腹節背中側に平べったく黒い頭部がちょっとのぞいている。松浦さんの本によれば、ネジレバネの寄生率は一つの巣の働きバチの1%以下とあるし、何よりも生まれて初めて見るのだから、これはもう僕にとっては超珍品だ。 ここで一つ疑問。このキイロスズメバチは女王バチなのか働きバチなのか。両者をじっくり見比べたことなどないし、これまでは越冬しているのはすべて新女王だと思っていたからわからなくなった。ネジレバネは必ずしも働きバチだけに寄生するわけではないようだが、気になる。もう一度松浦本をめくってみると、「スズメバチでは女王と働きバチのあいだには、体の大きさ以外にはっきりした違いが見られない」とある。で、キイロスズメバチの記載には、体長が女王バチ25-28ミリ、働きバチ17-24ミリとなっている。件のネジレバネ寄生を受けている越冬キイロスズメバチの体長は約28ミリ。大きさからいってやはり新女王とみるのがよさそうだ。 スズメバチ腹節間から頭を少しだけのぞかせているネジレバネ。これまで越冬中のスズメバチを何度となく見てきたが、そこにネジレバネはいたのだろうか。今日のように腹部をじっくり見てこなかったなあと後悔の念がわいてくる。 ところで、このあとの処遇についてはあれこれ思案中。その思わせぶりな頭部をながめていて、できるならその全形を見てみたいという気持ちがわきつつある。
by narwhal2
| 2005-11-18 21:03
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