2005年 12月 20日
局地的な近しい自然の一次情報をメインにというのが当ブログの売りだと思っているのだけれど、タイムリーな情報がとびこんできたので、それからはずれるが久々にイッカク話を。 昨日、沖縄の盛口氏と電話で話していたら、大阪の丸山さん(「ひっつきむしの図鑑」というすばらしい図鑑をつくられた方だ)の「イッカクの牙がセンサーだったという記事が出てるから安田に伝えよ」という伝言を聞いたのが始まり。この情報は、大阪→沖縄→長野とえらく遠回りしたわけだが、ちゃんと伝わってきた。知人ネットワークというのはありがたいものだ(丸山さんありがとうございました……ってここを見てないでしょうねえ)。 さっそくネットで検索してみると、あちこちのニュースサイトに同じ記事が掲載されている。その一つ、エキサイトの記事によると、イッカクの牙は、水質を調べたり他のイッカクと接触したりするのを手助けする大型センサーであると、米国の研究グループが明らかにした、という内容だった。 サイトの方でも若干触れているが、イッカクの牙の役割についてはそれがきわめて特異な存在であるだけに、これまで歴史的にあれこれ数多くの考えが発表されてきた。センサー的なものっていうのもたしかあったなあ、今ひとつピンとこないなあと思いつつ、ニュースソースを見れば、どれもロイター発のもの。ロイターの記事も見たがほぼ変わらない量の情報(そりゃそうか)。 もう少し内容を詳しく知りたいということで、そもそもの発信元であるHarvard Medical Schoolのニュースリリースにたどり着いた。こういうイモヅル式ができるのが、ネットの正しい使い方だろう。 ここから先は英語の世界。日常会話くらいは片言で何とかなるが、こういうときに意味を正確につかむには、悲しいことに辞書をひきひき時間かけて読むしかない。日本一のイッカクファンと自称するからには、なかなか触れることのない新しいイッカク情報は、何としても読んでおかねばならぬ。 が、結局のところ、エキサイトの要旨からそれほど内容が増えたわけではなかった。どこにでも強調されているのは、その牙の外表面に、中心を通る太い神経につながった1000万もの細かな神経が張りめぐらされているということ。おそらく捕獲個体の解剖学的、組織学的な観察からわかってきた研究なのだろう。一見ただ固い角のように見えるイッカクの牙が、正反対に、柔軟で、きわめて敏感な触覚を備えたデリケートな器官だということがその主題であるように感じられた。 このことは、「やっぱり」でもあり「へえー」でもあった。 イッカクの牙が取り外されるところを見ていると、その中には大きな空洞があって、ちょっと驚くほど太く赤黒い歯髄といった柔らかな組織の入っているのがわかる。それを見ると、イッカクの牙はたしかに歯であって、欠けて(そういう個体がよくいる)歯髄が出たりするときっと相当痛いのだろうな、というくらいのイメージは持っていた。しかし神経が中心部分だけでなく牙表面にまで通っていて、相当程度敏感に出来ているということはやはり驚きに値する。誇張すれば「神経がむきだしに近い状態の歯」ということなのだから。 実は僕が一番驚いたのは、かなり大きなプロジェクトとしてこのイッカク研究が進められているということを初めて知ったことだった。このプロジェクトはNarwhal tusk discoveriesというもので、ハーバード、ナショナルジログラフィック、スミソニアンといったところが創立していて、何年も前からポンドインレットからのフローエッジ遠征など含め行われているという。サイトにはイッカク関連のいろんな分野の情報が集められており、イッカクを知る上では貴重なサイトとなっている。 が、肝心の今回の研究発表の元になりそうな詳しい内容は見つけだせないまま。やっぱり研究者と知り合って論文を手に入れるくらいにならないと、この先にはいけないか……。辞書を片手に英語の世界を探索するのにもくたびれたので、今日のところはここまで。 (ちなみに今日の画像は、とりはずされたばかりのイッカクオス牙表面) →タスク記
by narwhal2
| 2005-12-20 14:38
| イッカク
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