2005年 12月 22日
ヌウェイア博士(こういう発音であってるのかなあ)率いるプロジェクトチームが発表したイッカクの牙に関する研究についての追加情報。
というより、その内容がまだうろわかり状態なので、あれこれ勉強しつつ解読しているところで、今日も自分でわかった分を紹介しておこうと思う。 エキサイトの(ロイター発の)記事などを見ると、その主題は「イッカクの牙はセンサーだった!」ということになっているのだけれど、この点についてはもう少し勉強しないとなかなかついていけそうもない。 Harvard Medical Schoolのニュースリリースには、それからややはずれるが、もう一つ、かなり気になる内容があった。「イッカクの牙は強さと柔軟性を兼ね備えており、たとえば8フィート(約2.4メートル)の牙は、折れることなしに1フィート(約30センチ)曲げることができる」というもの。 イッカクの牙はとても固そうに見える。内部にかなり空洞があるとはいえ、手にするとズシッとした重みもある。牙は高価だからとてもそんなマネしているのを見たことがないけれど、無理やり曲げればそこまで曲がるものなの?とビックリしたのだ。 このプロジェクトのスポンサーの一つ、ナショナルジオグラフィック(アメリカ本家の方です)のサイトへ行ってみたところ、この研究がらみのニュース記事に、もう少し詳しい内容が紹介されいていた。例によって、辞書片手に読み進めてみると、その牙の構造についてさらに興味深い内容が登場。「イッカクの牙は裏返しになってる」のだという。 とても面白そうなのだけれど、何のこっちゃ?いきなり歯の専門用語が出てきてしまい挫折しかかる。そういえばヌウェイア博士という人は歯学の人なのだった。本棚をあさって、骨格標本をはじめたころお世話になった「図説家畜比較解剖学」(川田信平・醍醐正之、文永堂)を引っぱり出してきて、まずは一つひとつ歯のお勉強。 歯というものはいくつか固さの違う物質が組み合わさってできている。まず外側にはエナメル質。エナメル質という層には、硬いリン酸カルシウムといった鉱物質が多く含まれているためにとても硬くなっている。その内側が象牙質という歯の主体部分。象牙質はコラーゲンというタンパク質がより多く含まれていて、エナメル質よりは柔らかい。さらに内側、歯の中心部は空洞になっていて、そこには歯髄という血管と神経などが通っている。また歯は骨に埋め込まれているが(歯ぐきの中の話ですね)、その歯と骨のすき間を埋めているのが、セメント質。これが歯ではもっとも柔らかい。で、磨り減り防止のために、外側は硬いエナメル質、内側には柔らかい象牙質、根元のすき間を埋めているのが最も柔らかいセメント質。これが動物の歯の基本構造だ。 さて、イッカクの牙はどうなっているか。研究チームが牙の断面で調べたところ、最も内側の、歯髄を取り囲んでいる部分がもっとも鉱物質に富んでいて硬く、外側部分は鉱物質が少なく柔らかかった、という。さらに本来、歯と骨の間を埋める機能の最も柔らかいセメント質が、なぜか最も外側の水中に出ている部分に分布しているのだという。内に硬く、外に柔らかい、つまり他の動物の歯と比べると、完全に裏返しの歯、というわけだ。 なぜ裏返し?とすぐに疑問が浮かぶわけだけれど、研究チームによると、深く潜水している間に(たとえば水深1500メートル潜ったという記録がある)間、高水圧に耐え、衝撃を吸収するのに役立っているのではないかという。 イッカクの牙の硬さと柔軟性。実際にオスが持つ牙を見ていると、途中で折れているものをしばしば見かける。とりわけ先端部の欠けたものは多いように思う。ではその辺の事情と牙の構造はどうかかわっているのか……。一つわかるとまたわからないことが出てきて、さらに知りたくなってしまう。 (今日の画像もイッカクの牙。左はやや短めで取りだしてまもない状態。こんな風にらせんの溝に藻類が付着して褐色がかっていることが多い。右はクリーニングした後のもの。どちらも根元の赤みがかった部分は頭骨に埋まっていた部分) →タスク記(その2)
by narwhal2
| 2005-12-22 13:11
| イッカク
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