2006年 04月 25日
この虫とつき合っていくのなら、一度は通らなければならないと思ってはいた。ツチハンミョウの産卵数のことだ。ツチハンミョウは多産で知られている。
最初に産卵シーンにお目にかかったのはヒメツチハンミョウの方だった。一つひとつの卵は小さく、それがまとめて産み込まれて卵塊となっており、たくさんの卵だとすぐにわかったが、ではそれが何個なのかというと見当がつかなかった。先人によって書かれたものをいくつか見れば、それは数千というオーダーであるとあったが、目の前の卵塊に含まれている卵が何個なのかを知りたい、と、そのときから考えていたのだろう。だが、そのときもそしてその後も勇気が出ずに手がつかないまま。それが相当に困難な作業になることが目に見えていたからだ。 計算でだいたい求めてしまうということも可能だろう。卵塊全体の重さを測り、そのうちの一部をとり重さを測っておいてそこに含まれる卵の数をカウントする。でも、それじゃヤッパリ数えた気にならんのじゃないのか?と精密計りなど持っていないことを棚に上げても思ってしまうのだ。どうせやるならすべてを一つひとつ数え上げてみたい、そう思いつつも実に3年がたってしまった……。 重い腰を上げたのは、4/18に中平の河川敷から連れ帰ったマルクビツチハンミョウが2日前に産卵したことがきっかけとなった。このメスは、見つけたときにすでにお腹パンパンといった状態にあり、産卵用の土を入れた容器を用意するのが遅れ、まにあわせに入れておいたケースの底のペーパータオルに卵塊を産んだ。そのためいつものように卵には土粒がまったく付着していない。数えるならこの卵塊しかない、そう思ったのだ。 かくして本日午後1時、マルクビツチハンミョウ卵塊に含まれる卵の数かぞえプロジェクトがスタート。挑むべきは太さ8.5ミリ長さ14ミリの円錐形に近い形の卵塊。 さていったいどうやって数えよう。卵一つは直径わずか約0.2ミリ、長さにしても約0.7ミリという極小サイズ。とりあえず卵塊を少しくずし、白い紙の上に広げ、実体顕微鏡でのぞき、柄付バリで一つずつ動かしつつカウントしていく。が、ちっとも進まない。卵は適度に湿っていて、お互いにくっついており、それがハリにくっついたりして始末に負えない。おまけに顕微鏡の視野は狭いので、どの卵を数えてどの卵をまだ数えていないのかわからなくなる始末。 つぎに小さな卵塊を少量の水に入れてかき回し、ティッシュペーパーに水ごとまいてみる。これはさらによろしくない。たいしてバラバラになっておらず、しかも濡れたティッシュはよじれて動かしにくく見にくい。ティッシュ一枚を数えあげるのに多大な労力を使ってしまう。 試行錯誤の後、卵塊を少量の水に浸し、面相筆でバラバラになるように崩し、その卵まじりの水を面相筆で少しとっては、小さく切った粗い方眼入りの紙に直線的に並べ、その紙毎にカウントしては数字をメモしていく。卵ができるだけ重ならないよう、顕微鏡視野の幅よりも狭く並べるのがコツだとわかるまで、これまたかなりの時間を要した。 要領がわかってくると、今度は数のかぞえすぎだろうがもうろうとしてくる。初めはBGMなどかけていたのだけれど、歌詞が聞こえると数えている数字が怪しくなってくるのですぐに止めた。 1時間たち、2時間が過ぎるのに、卵塊はたいして減ってないように見える。これがまたこたえる。どのくらい進んでいるのかさっぱりわからない。途中お茶を一杯飲んだ以外、作業しつづけ、3時間後、ついにこの細かな単純作業がつづけられなくなり、中断。学校から帰ってきた息子がやっていることを聞いてあきれている。薄情な息子だ。外に出て、遅れてしまっている畑の土起こしをしに行く。 5時、卵数え再開。畑仕事で体は疲れたが、それでもリフレッシュできたらしく、作業は淡々とつづけれらるようになった。6時近くになって残りの卵塊が小さくなってきた。終わりは近い。紙の上に散らばった卵を慎重にかき集める。最後に面相筆の毛の間にはさまった卵をすべてとりだして最後のカウント。6時5分、作業時間4時間5分にてカウント終了。ふうー。 さて、フィールドノートにはいろんな数字のメモが散らばっている。電卓にて集計。……結果、8775粒。この数字自体が産卵数として多いのか少ないのか、実を言うといまのところよくわかっていない。しかし少なくとも、8775個の小さな卵を数えるのがどのくらい過酷なものなのか、は十分にわかったのであった。ふうー。 →マルクビツチハンミョウ(その5)
by narwhal2
| 2006-04-25 20:36
| コウチュウ目
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