2006年 08月 29日
宿に戻り、オニハエヤドリタケを見つけた余韻に浸りつつ、持ってきた標本をタケダさんに同定していただいていると、「コブガタアリタケ出たらしいよ」との声が聞こえてきた。情報を集めたところ、宿のすぐ近くの林からコブガタアリタケがいくつも見つかったということらしかった。半信半疑で外へ出る。 宿の下にはちょっとした雑木林があって、下草も少なく、一部に小さな沢も流れている。なかなかよさそうだったので、前日に歩いたが冬虫夏草は見つからなかった。その雑木林の下から上がってきた方がいたので聞くと、「もう少し先だよ」と場所を教えてくれる。その雑木林は少し下るととぎれているはずだ。ほどなくヒノキの植林地に入ってしまったが、その先に数人の方が来て探索しているのが見えた。どうやらそのあたりらしい。 そこは若いヒノキがまばらに生え、ところどころにアカマツが点在し、低木がまばらに生えたやや乾き気味の林。とても虫草発生に適した環境とは思えない。半信半疑で林床にうずくまり、低木の枝を透かし見ることしばし…… 「アッ、あった」。あっけなく細枝にムネアカオオアリがしがみついているのが見つかる。よく見れば、首回りにまるで極太のマフラーでもしたかのような子実体がとりまいている。さらに探索していくと、すぐ近くの細枝にもう一つ。さらにもう一つ。「うーん、こんなところでこんな風に見つかってしまうものなの?」。午前中に出かけたG沢では一つも見つからなかったのに、あっけなく3つも見つかって拍子抜けする。他の方たちも見つけているようだ。ここで会の総会が始まって探索中断。夕方暗くなりかけたころ、コブガタアリタケ発生情報を聞きつけたマサキさんと再度現地へ。薄暗い中、5分ほどで2個体が見つかる。まだありそうだ。 夕方、マサキさん採集のコブガタアリタケを見ていたら、ウチヤマさんがやってきて一つひとつのぞいていく。と、ウチヤマさんいきなり「ラセイやっぱりあったじゃーん!!」と標本を手に走りだす。僕もマサキさんもアッケにとられる。 冬虫夏草の子実体(いわゆるキノコの部分)には、胞子のおさめられた子のう果というカプセルのような小部屋が備わっているが、それが子実体にほとんど埋まってる埋生型から、むき出しになってる裸生型までいくつかのタイプがある。コブガタアリタケはそれが埋まっている埋生型だ。ところが、ウチヤマさんがこの日とったコブガタアリタケの中に一つだけ、子のう果のむき出しになってるタイプが混じっていた。で、マサキさんの標本にもむきだしタイプがあって、かくてウチヤマさんが走りだしたというわけだった。子のう果の型は分類の決め手になってる重要な特徴なので、二つのタイプが混じっているのはえらく大きなことなのである。 次の朝、コブガタが気になっていたのか5時半頃に目が覚める。せっかくなので、コブガタポイントへ向かう。と、すでにタケダさんをはじめ5,6人が林床にうずくまっている。聞くと暗くて見えないころから探してるという。うーん、さすがだ……。 昨日見つけた3本のアカマツ近くに僕もしゃがみ込んで探索開始。さすがにもうないか、と思いつつも見つづけていると、今日はじめの一本が見つかる。どうやらアカマツ周辺が発生地となってるらしい。今回の第一発見者クマダさんもこのアカマツ近くで見つけている。 「アッ、あった」 そのクマダさんの声が斜面のさらに上から聞こえる。アカマツはヒノキに混じって点々と分布しているが、その一つ近くから見つかったという。それじゃあとさらに上のアカマツ周辺に移動して探索。たてつづけに3つが見つかる。 このアカマツポイントで、僕が標本として手にしたコブガタアリタケは最終的には13個体。今回の参加者の採集したコブガタアリタケの総数は130個体(メモし忘れてうろ覚えの数字……)にもなった。うーん、どこが「稀」なの、だ。だが、カイツさんによると「以前たくさん出た翌年にはグッと減ってそれから見られなくなった」らしく、今年限りかもしれない。 今回探索していて気になるのは、その発生がアカマツにからんでいるのではないかという分布をすること。 「ムネアカオオアリとアカマツって何か関係あるの?」 そんなことを聞かれたが、これについてはありそうでなさそうという感じ。ムネアカオオアリがアカマツにからむとしたら、その朽ち木によく巣をかまえているということだろうか。だが立木の生きてるアカマツに営巣することはあるんだろうか。 午後、今度はK山で採集会。オニハエヤドリ、コブガタアリタケという2大目標を達成してしまい、ここでは不作。集中力と運を使ってしまったらしい。時間ぎりぎりにようやく見つけたミドリクチキムシタケは、掘り出しの際、あせって虫体を切断してしまった。とほほ……。 そんなこんなで2泊3日の福島虫草詣では、思いもかけない虫草たちに出会ってしまう旅となった。さらに何人ものおもしろい方と知り合いお話する旅でもあったのだが、そのことについてはまた別の機会に紹介したい、と思う。 →虫草詣で(その5)
by narwhal2
| 2006-08-29 20:55
| 菌類
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