2006年 09月 18日
巣に飛んで帰るハチがぶらさげる白い目印を追っていく。マクることを一言でいえばそうなるのだが、これもまた実際にやるのはえらく難しい。飛び立って最初のうち、目印はよく目立っている。目の高さくらいをゆっくりとしたスピードで飛んでくれたならばマクるのも容易いかもしれない。が、ハチはこっちの都合など関係ないわけで、木の向こうに回り込んだり、笹藪の中に潜り込んだり、低く飛んだり、高く舞い上がったり、急にスーッとスピードアップしたりする。目印の糸が小枝にからみつく。目印のついた糸をかみ切ろうとする。そこまで近づいていって、目印をそっと動かしてかみ切られないようにする。ようやく再び飛ぶ。それを追う。そのくり返しだ。 僕はといえば、実際のところ目印を見失ってばかりだった。少し離れるといくら真っ白な目印とはいえ見にくくなってくる。林の中ではたびたび木々にさえぎられる。枝にとまっているのか、見えない角度にすでに飛んだのかがわからなくなる。とくに高く上がると明るい空に目印が重なってしまいパッと見失ってしまう。僕はたびたびハチじゃなく、KさんとKさんの目線を追うばかりとなった。 そのKさんをもってしてもしばしば見失う。 「スガレはどこにでもいる。でもスガレをマクるのは難しい」 見失った場合、同じハチがエサ場に帰ってくるのを待ち、同じように目印つきのエサを抱えさせ、それをハチごと手で持って見失った地点まで運び、その少し手前でトバす。この少し手前、というところがポイントだという。 「どうしても少し先に行ったところから放したくなる。でもハチはそっちへ行かなかったのかもしれない。通ったことのないところではハチはとたんにわからなくなる。何度かそれでひどい目にあった。巣まであと少しというところだったのに、その先で放したもんだから、あっちいったりこっちいったりでさんざん振り回された」 こうやっていわば尺取り虫方式で巣に近づいていく。追っていく過程で、巣がかなり遠そうだとわかったり、大きな谷の向こうだったりということがわかると、その巣はあきらめ追うハチを変える。苦労して巣にたどり着いても、獲るのが無理な場所だったということもある。 「こりゃ、やっぱりあの巣だな。あ、もういいよ。わかった」 広場を突っ切り、建物の向こう側に消えてったという僕の報告を聞くと、Kさんはそういった。何度もここには通っているのでいくつかの巣がKさんの頭にはインプットされている。その一つは建物の壁にあって獲れないらしい。 あるグン(シダクロ)をマクっていたときのこと。カラマツの枝先に一度止まり飛び立ったのだが、そこで二度つづけて見失った。Kさんがクマザサの海の中に入って追い、僕は道沿いに先回りして見張る。 「飛んだぞ!」 Kさんの声を聞いてほどなく、ヒラヒラと目印の飛んでくるのが見えた。と、空中でUターンして、戻っていく。 「来た。あれ?戻りました!」 笹藪の中からKさんの声。 「あったぞ」 行ってみると、生い茂ったササの根元にハチが出入りしている。半日ほどかけてたどり着いた初めての巣だ。 「こりゃ、小さいなあ」 働きバチの出入りの様子で地下の巣の規模が読みとれるのだ。本来なら小さな巣はおいておくところなのだが、今年は平地でスガレが少ないこと、僕がスガレ追いの行程を一通り見たいという希望もあって、この巣を掘ることになった。 まずはネットとゴム手袋という装備を身につける。余計な振動を与えないようにして根元近くのササをハサミで切る。ここで煙幕。煙幕はこのあたりでは「はちとり」というものが、あちこちの店で普通に売られている。それだけスガレ追いがポピュラーな秋の行事ということがいえるだろう。その煙幕に火をつけ巣穴に差し込む。煙幕の麻酔効果は5〜10分とのこと、ここからは手際よく行わなければならない。 小さな草刈りガマと剪定ばさみを使って斜めに掘ること25センチほど。白っぽい巣の外装が見えた。パルプのその外側は意外にもろく持つとパラパラと崩れやすいくらいの固さだ。取り出された巣は20センチほどのボール状のものだった。 エサをかけてから最初のこの巣にたどり着くまで半日。結局この日、夕方早めの時間までスガレを追い、掘り出しまでいった巣は、グンが二つ、ピンコロが一つであった。 →スガレをマクる(その2)
by narwhal2
| 2006-09-18 11:28
| ハチ目
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