2005年 01月 06日
こういう自然観察生活をするようになったからか、本をあまり読まなくなった。とくに小説。正月にようやく熊谷達也「邂逅の森」と村上春樹「海辺のカフカ」を遅ればせながら読んだくらい。そしてどちらも図書館から借りたものだ。教員時代には月に何万円分もの本を買いつづけていたのだけれど、今ではめったに買わない。それでも図鑑のたぐいだけはやはり必要だなあとわかってきて、これは図書館にもほとんどないから入手するしかない。この冬、インターネット経由で古本屋から手に入れたのは「原色日本蝶類生態図鑑」(保育社)の第1巻と第2巻。このシリーズは生態的な観察データという通常の図鑑では少ない情報が満載されていて、たとえばそれぞれのチョウがどんな風に越冬するかなんてことも書かれているから重宝だ。
実は二シーズン空振りしつづけの越冬昆虫がいる。コムラサキ。ヤナギ類を食樹とするこのチョウはこのあたりでは川沿いによく見かける。越冬態は幼虫。近縁のオオムラサキとゴマダラチョウが食樹の根元、落ち葉にしがみついて冬越しするのに対して、コムラサキの場合は樹上で冬越しする。心当たりのヤナギ林で何度か探索を試みたが成果はなし。そのチョウが生息していて、ヤナギの木と場所も限定でき、その木のどこかに隠れているわけでもなくしがみついていることまでわかっているだけにあきらめられずにいた。 先の図鑑を手に入れてさっそくコムラサキの項を読んでみた。越冬幼虫は「小枝の分岐点、太枝と樹幹との分岐点、樹皮のひだの部分、樹皮の割れ目や、めくれ上がった樹皮の裏側」などにいるとある。うーん、詳しく書かれていていいのだけれど、結局はへこみであればどこにいてもおかしくないということか……。今日も午前中に天竜川沿いのヤナギを見て回ったのだけれどやはり見つからず。 午後にはいつもの大田切の林に別の目的で行ったのだけれど、ふと見れば川沿いにヤナギが何本か生えている。結局またコムラサキ幼虫探し。と、数本目のちょうど目の高さの樹皮割れ目に角状のものが見えた気がした。あわててルーペをとりだしてのぞけばアタリ。3シーズン目にしてようやく見つけたコムラサキの越冬幼虫だった。体長は10ミリほどで色彩も樹皮に近い。もしもオオムラサキやゴマダラチョウで見慣れたその角状突起がついていなければ気がつかなかっただろう。それでも人間のパターン認識というのはなかなか優れもののようで、一度その像ができてしまったからだろう、結局夕方までに5匹の幼虫を見つけることができた。 それぞれの越冬状況は以下の通りだった。 地上高 幹直径 方角 状況 130cm 3cm 北東 樹皮割れ目 145cm 6cm 北東 樹皮割れ目 65cm 10cm 北 樹皮割れ目 45cm 13cm 北 樹皮割れ目 150cm 2cm 西 枝落ち跡の凹み この難易度の高い越冬幼虫にお目にかかるコツは木の選び方にあるのではないかと思う。あまり太くない若い木を見ること。これはそこに幼虫がたくさんいるということではなくて、あくまでも探しやすさの問題。太く立派な木の樹皮はたくさん深く複雑に割れていてチェックポイントをしぼりにくいが、若い木は枝又にせよ樹皮の割れ目にせよ少ないから集中して見ることができるからだ。 #
by narwhal2
| 2005-01-06 18:45
| チョウ目
2005年 01月 05日
年末そうじの際、思いつき的に本を少し処分した。一般書ばかり段ボール2,3箱、100冊くらいだろうか。持っていったのは近くの古本チェーン店。こういう本をそういう店で引き取ってもらってもわずかな金額にしかならない。まあそれはわかっていたことではあったし、代金は査定を待っている間に見つけた数冊の本に結局化けた。その中の一つ、BIRDERという鳥雑誌のバックナンバー1994年9月号、値段105円の格安。モズ特集とあったので「ほおー」と手にとりめくったら、小川巌さんという方が「モズの食生活からはやにえを推理する」と題してタイムリーにもはやにえについて書いておられたので買ったのだった。
小川さんはその中で、モズがはやにえとするエモノのメニューと、モズがはきだすペリットに含まれるエモノのメニュー、について調査した結果について書いている。それによると、はやにえの方のメニューは、多い順にトノサマバッタ、エンマコオロギ、ガの幼虫、カエル、その他、と直翅類が上位を占めた。ところがペリット分析からわかるメニューは、ゴミムシ、マグソコガネ、スズメバチ、ケラ、ヨモギムシ、トノサマバッタ、その他、とはやにえとは大きく異なっていたという。 ここから小川さんは考察する。モズは本来地上徘徊性のゴミムシやクモを捕食するべく進化した鳥なのであって、通常はそれらをとらえて食べている。それらが不足する時期(秋ということか?)になると、バッタやコオロギなどの直翅類で補うが、それが余ったり気に入らないときはやにえにする。だからゴミムシなどではなくバッタ類がはやにえに多いのだろう、と。 ゴミムシやクモがモズの基本食になっているということ自体初めて知ったのだけれど、たしかにこれらがはやにえになっているのを見た記憶はない。バッタやイナゴの方がうまいんじゃないのと思いたくなるが、小川さんはその点を飼育実験でたしかめているらしく、モズの好みはむしろ逆らしい。小川さんの推察でいくと、つまりはやにえというのは、モズが「好きではないもの、余ったものは後回しにしとこ」的に刺しておいたものたち、ということになる。 冬半ばの今頃はやにえを見て回っていると、そうやって後回しにされたエモノたちも、結局はエサとして使われているのかな、と思えてくる。それをモズが食べている場面を直接観察しているわけではないのでこれも憶測だけれど。ただここのところはやにえがとても少ないのは確かだ。秋にはやにえとして確認しているのに今そこにいくとはやにえは消えている。今日も午後に心当たりの川沿い、ウメ林を一時間ほども見て回ったのだけれど、干からびたガらしき幼虫のはやにえをただ一つ見つけたにとどまった。 イナゴの仲間 クルマバッタモドキ 種類不明の幼虫 ガらしき幼虫 アマガエル 種類不明の小魚 ここのところ目にしたはやにえメニューより #
by narwhal2
| 2005-01-05 20:15
| 鳥類
2005年 01月 04日
妙に冷え込みのゆるくなった午後、散歩に出る。雪も融けだしてよかろうと思ったのだが、日陰にはしっかりと残っているし、融けだしたところは逆にビシャビシャ。コンディション悪くなかなかこれといったものに出会わない。古田切の谷の竹林で見つけたキボシアシナガバチのきれいな古巣が唯一の収穫。 谷から上がって段丘面沿いの集落を行く。道に少しのびたウメの枝にイラガのマユあり。さらにいくとこれまた工場の敷地から道に張り出したサクラの枝にもイラガのマユ。 この冬はイラガのマユを集めてみたい、そう思っていた。イラガというガは、冬のマユとその前の終令幼虫くらいしか見てこなかったことが一つ。もう一つはこのイラガに寄生するハチ、イラガイツツバセイボウにお目にかかりたいと思ったからだった。 この両者の攻防については岩田久仁雄さんの「自然観察者の手記」(朝日新聞社)に紹介されている。イラガの越冬マユに穴をうがち産卵寄生するイラガイツツバセイボウはもともと日本にいたハチではなく、明治末から大正初に中国からやってきた帰化昆虫だ。1914年に日本で最初に記録されるが、1940年代から一気に定着する。たとえば岩田さんは香川において1948年からの2年間に2580個の越冬繭を集め、その中の956個にこのセイボウが寄生していた、という。イラガの繭の実に半数近くが寄生されていたわけだ。とともにこの章を読んでいて驚いたのは、何よりイラガの繭を2500個も集めることができたということだった。岩田さんの調査能力がきわめて優れていたということを仮に差し引いたとしても、以前はそれほどたくさんイラガがいたということなのだろうか。 移り気自然観察者の僕は、何かのついでにイラガの繭を探しているだけで、しかもその気分も忘れてしまったりするくらいだから、この冬に入ってもまだ10数個くらいしかその越冬マユを見つけていない。そしてイラガイツツバセイボウの産卵跡(マユに1ミリほどの穴をかじり開け、産卵後、かじりカスをだ液とまぜて穴埋めするので跡が残るのだという)のついたものはまだ見つけていない。 #
by narwhal2
| 2005-01-04 18:13
| チョウ目
2005年 01月 02日
今朝はバリッと冷え込んだ。こういう冷え方は久しぶりのような気がする。大晦日にふった雪はほとんど融けていない。カミさんは初売りを物色に出かけ、子供は書き初めの道具を広げ始めたので、その間にフィールドへ出る。 今年最初の散歩はいつもの大田切の林。積雪20センチほどだろうか。人の足跡のないところを入っていくのは楽しい。しばしキツネの足跡をたどる。林から田んぼに出たところで足跡の間隔は広がっていて駆けだした姿が目に浮かぶ。林道の脇で足跡はグルッと環を描いており、雪面に黄色い尿が散らばっている。タヌキの足跡が近づいてきて別れ、テンの足跡が横切っていく。 これだけ雪におおわれると、落ち葉をめくることも地面の石をひっくり返すこともままならない。そこで目星をつけておいた木をめざす。その日当たりのいいところに独立したヒノキは数年前から立ち枯れていて、樹皮がカパカパに半ばはがれている。昨年このヒノキの樹皮下ではカメノコテントウの越冬集団を見つけていて、今年もいるのではないかと思ったのだ。 皮の端をそっとめくってみれば、やはりカメノコテントウがあらわれた。その中にオオトビサシガメも混じる。これも昨年同様。両者の越冬場所の好みは一致しているようで、先日別の場所の似たようなヒノキ樹皮下でも同居していた。 カメノコテントウはいつも気になりつつ、越冬モード以外の生活はまだのぞくことができていない。春に集中してあらわれるヤナギハムシ、クルミハムシなどに同調して活動しているはずだが、どうもいつもその時期を逸してしまっている。今年こそこの存在感のある大型テントウムシにつきあってみたい。 #
by narwhal2
| 2005-01-02 11:55
| コウチュウ目
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